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【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/9/13

吾輩は猫である ― ペット可マンション事情 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 近ごろ人間たちは「ペット可マンション」なる住まいを好むらしい。飼い主も吾輩を伴って見学に行き、営業マンが胸を張って「ペット可です」と誇らしげに告げるのを聞いた。 だが実際のところ、事情はそう単純ではない。規約には細かい文字が並び、「体重10キロ以内」「共用部ではキャリー必須」など、まるで吾輩が巨大怪獣であるかのように制限される。 確かに、吠える犬殿や羽ばたく鳥殿も住まうのだから、互いに配慮が必要なのは理解している。けれど吾輩としては、廊下をしっぽ高く歩くくらいは許してほしい ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/9/13

吾輩は猫である ― 猫とマンション 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 吾輩の住まいは高層マンション。地上を駆け回る猫に比べれば不自由かと思いきや、ここにも独特の面白さがある。 まず、窓からの眺めだ。鳥は小さな点となり、車は箱庭の玩具のよう。吾輩は毎日、天空から世界を見下ろしている気分である。 だが、マンション暮らしには掟がある。廊下に勝手に出てはならず、夜中に大声で鳴けば隣から苦情が飛ぶ。しっぽを高く掲げて歩くにも、人間のルールをわきまえねばならぬ。 それでも、上下左右に暮らす人々の気配は、退屈を紛らわせる。ピアノの音、子どもの笑い声、そして ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/9/13

吾輩は猫である ― 雨のち晴編―

吾輩は猫である。名はまだない。 朝から雨が降り続いていた。軒先のしずくは途切れることなく落ち、庭の土は黒く濡れて、花々は肩をすくめているように見える。 吾輩は窓辺で丸くなり、ただ静かにその音を聞いていた。ときに雨は心を沈める。けれど同時に、大地を潤し、新しい芽を育てる恵みでもある。 やがて昼を過ぎたころ、雲間から光が差した。濡れた木々の葉が一斉にきらめき、空には淡い虹がかかった。雨は終わり、晴れが訪れたのだ。 吾輩はふと思う。猫生も人生もまた、この空のようであろう。降り続く雨に耐えるときがあり、その先には ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/9/13

吾輩は猫である ― 線状降水帯 編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。 昨夜から雨がやまぬ。縁側の外は白く煙り、庭の土は水を吸って重く沈んでいる。ただの長雨かと思っていたが、飼い主のテレビから「線状降水帯」という言葉が流れた。 どうやら空の高みに、雲が次々と連なり、同じ場所に雨を落とし続ける仕組みらしい。吾輩の眼には、空が破れて水が注いでいるようにしか見えぬ。 やがて雨脚は強まり、屋根を叩く音は太鼓の連打のよう。排水溝は溢れ、川は濁流となる。吾輩は窓辺から動かず、ただ耳を伏せてその音を聞いた。 自然の前では、猫も人も等しく小さな存在に過ぎない。 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/9/13

吾輩は猫である ― 猫歌舞伎 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 今宵、木挽町の大舞台。定式幕がすっと引かれると、太鼓の音が鳴り渡り、笛が澄んだ調べを奏でた。観客の視線が一斉に花道へ注がれる。 そこに現れたのは――吾輩。役は「招き猫三番叟」。毛並みは黒白のまだら模様、鈴を胸元に飾り、緋色の衣をまとって進む。 足取りをすり足に合わせ、途中で見得を切ると、客席から「にゃーっ!」と声が飛ぶ。人間の「成田屋!」に劣らぬ掛け声だ。 舞台の最後、大きな鯛が吊り下げられる。吾輩は勢いよく飛び移り、しっぽを高々と掲げた。拍手が鳴りやまず、照明がまばゆく降 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/9/7

吾輩は猫である ― インターン 編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。 今朝はいつもの昼寝場所ではなく、飼い主に連れられてオフィスなる場所に来た。どうやら「インターン」という制度で、若者が社会を学ぶ日らしい。 スーツ姿の学生たちが緊張した顔で挨拶をしている。「よろしくお願いします!」声は張りつめ、まるで新しい縄張りに踏み込む猫のようだ。 吾輩は机の下から観察する。メモを取る姿、パソコンを打つ指先、笑顔を作ろうとするがぎこちない口元。それでも必死に前へ進もうとする様子に、ひげがぴくりと動いた。 人間にとってインターンは試しの場らしい。だが吾輩から ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/9/7

吾輩は猫である ― 猫敬老の日 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 この町では今日は「敬老の日」だという。人は年長者を敬い、感謝を伝える日らしい。だが猫の世界でも、長く生きることは誇りである。 路地裏の古株の三毛は、齢二十を越えた。耳は遠くなり、足取りはゆっくりだが、眼差しは今も若き日の狩人のままだ。吾輩たちは自然と頭を下げ、その背中に教えを受けてきた。 長寿の猫には、物語が刻まれている。港の変わりゆく景色を見届け、世代ごとの人間に可愛がられ、何度も季節を乗り越えてきた証だ。 人は花束や贈り物を用意するらしい。猫にとっては、陽だまりの座布団 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/9/7

吾輩は猫である ― ペットのための防災 編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。 日々の暮らしは穏やかだが、時に地は揺れ、風は荒れ、雨は牙をむく。そのたびに、人は「防災」を語る。だが忘れてはならぬ。人と共に生きる吾輩たちにも備えは必要だということを。 キャリーケースは避難の船。普段から慣れていなければ、いざという時に吾輩は中で暴れる。水とカリカリは三日分。薬やトイレ砂も、小さな袋にまとめておくのがよい。 首輪やマイクロチップは、離れたときに吾輩を見つける道しるべ。写真も大切だ。「この子です」と飼い主が示せる証拠となる。 避難所では「動物は困る」という声も ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/9/7

吾輩は猫である ― ネコノミクス 編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが、町内で最近囁かれているのは「ネコノミクス」なるものだ。 発端は魚屋の値上げである。鯵が一尾20円高くなったと聞けば、猫たちの暮らしは直撃を受ける。「給料(=カリカリ)は増えぬのに、物価ばかり上がるにゃ」獅子丸は尻尾を打ちつけ、不満を漏らした。 そこで古株の沙羅が提案した。「魚屋に頼るばかりではなく、独自通貨“キャットコイン”を発行しましょう」すぐさま路地裏で流通が始まり、カリカリ一粒=1コインのレートが定められた。 だが、葵がこっそり隠したマタタビを担保にしたことで、通 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/9/7

吾輩は猫である ― ウニ、アワビ 編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。 市場の朝は活気に満ちていた。人間たちが威勢よく声を張り上げ、魚の匂いと潮の香りが入り混じる。その中でひときわ輝いていたのが、ウニとアワビであった。 氷の上に鎮座する黄金のトゲと、殻の中で静かに光る海の宝石。人間は財布を握りしめ、「今夜のご馳走だ」と口角を上げる。 吾輩はそっと近づき、鼻先で潮の香を吸い込む。――磯の深み、海の底を思わせる芳醇さ。魚屋が笑って言った。「猫さん、これはさすがに贅沢すぎるぞ」 確かに吾輩の舌はカリカリに慣れている。ウニやアワビは手の届かぬ高嶺の花。 ...