gonta

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―3月31日 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 今日で、一つが終わる。暦の上では、ただの一日だが、人間にとっては区切りらしい。 三月三十一日。 机の上には、片付けきれぬ紙と、締めきった仕事。終わったものと、終わらなかったものが、同じ場所にある。 人間は、振り返る。やり切ったか、足りなかったか。答えは、どちらでもないことが多い。 吾輩は思う。区切りとは、整理のための印だと。 すべてを終わらせる日ではない。ただ、ここまで来たと認める日である。 窓の外には、少しだけ春の気配。終わりの隣に、始まりが置かれている。 人は、明日か ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―船を眺める 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 海は、穏やかに見える日ほど、油断を誘う。波は低く、風も弱い。 だが、その静けさの中に、危うさは潜む。 船は、急に大きく崩れるのではない。少しの傾き、少しの偏り、それが積み重なる。 荷の置き方、人の移動、重心のズレ。それらが重なり、ある一点を越える。 そこから先は、速い。 だからこそ、事前に防ぐ。 荷は均等に。急な移動は避ける。波の方向を読む。ライフジャケットを着る。違和感を感じたら、すぐに戻す。 吾輩は思う。安全とは、特別な行動ではないと。 当たり前を、確実に続けること。 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―石油と猫 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 冬になると、部屋の中心に一つの熱が置かれる。目には見えぬが、確かに暖かい。 人間はそれを、石油と呼ぶ。 地の底から来たものが、火を得て、空気を変える。冷えた指先が緩み、言葉も少し柔らかくなる。 猫は、暖かさを知っている。最も効率のよい場所を、自然に選ぶ。 近すぎれば熱い。遠すぎれば届かぬ。その間に、ちょうどよい一点がある。 人間の世界も、似ている。便利なものは、扱いを誤れば危うい。 石油は、力である。動かし、温め、支える。だが、制御を失えば、一瞬で変わる。 だから人は、距 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―油と猫 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 台所に、独特の匂いが立つ。静かだった空気が、急に動き出す。 人間は、鍋に油を引く。 熱されると、油は変わる。透明から、きらめきへ。やがて、音を伴う。 吾輩は、少し距離を取る。油は、近づきすぎてはならぬものだ。 跳ねる。予測なく、一瞬で。 世の中にも、似たものがある。便利で、役に立ち、だが扱いを誤れば、傷になる。 人間は、火加減を見て、油の状態を読む。早すぎず、遅すぎず。 適切とは、経験でしか測れぬ。 香りは良い。食欲を誘い、場を温める。だが、猫は知っている。 良い匂いほど ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―猫ドライブ 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 今日は、いつもと違う場所にいる。床が揺れ、景色が流れ、匂いが次々と変わる。 人間はこれを、ドライブと呼ぶ。 猫にとって、移動は目的ではない。場所が変わること自体が、一つの出来事だ。 最初は落ち着かぬ。音も、振動も、予測がつかない。だが、しばらくすると、リズムが見えてくる。 一定の速さ、一定の揺れ。それがわかれば、少し安心する。 窓の外には、知らぬ景色。通り過ぎるだけで、手は届かぬ。それでも、見ていると飽きぬ。 人間は、目的地を決める。時間を読み、道を選ぶ。 猫は、今を見る ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―ドライブレコーダ 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 車の前に、小さな目が付いた。黒く、黙って、ただ前を見ている。 人間はこれを、ドライブレコーダと呼ぶ。 走るたびに、すべてを記録する。良いことも、そうでないことも、等しく残す。 忘れぬための装置だ。 人は、記憶に頼る。だが記憶は、都合よく変わる。少し丸くなり、少し角が取れる。 機械は違う。そのままを残す。解釈も、感情も、持たぬ。 吾輩は思う。記録とは、正しさのためだけではない。振り返るためにあるのだと。 急いだ瞬間、迷った交差点、ためらった一秒。それらは、後から意味を持つ。 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―猫BBQ 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 外が、やけに良い匂いだ。煙が上がり、人間の動きが少し陽気になる。 人間はこれを、BBQと呼ぶ。 肉が焼け、音が弾け、会話が増える。火の前では、人は少し素直になるらしい。 吾輩は、少し距離を取って座る。近づけば熱い。遠すぎれば届かぬ。このあたりが、ちょうどよい。 肉は魅力的だ。だが、焦げた匂いと塩の気配が強い。猫は、素材を好む。 人間は、焼きすぎる。だがそれも、楽しみの一つなのだろう。 役割が分かれる。焼く者、食べる者、片付ける者。火を囲むと、自然に配置が決まる。 吾輩は、 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―まいやんカレンダ2026 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 壁に、新しい暦が掛けられた。紙はまだ固く、折り目も新しい。 人間はそれを、まいやんカレンダ2026と呼ぶ。 月が変わるごとに、ページがめくられる。同じ人でありながら、同じではない表情。 時間とは、進むだけでなく、重なるものらしい。 人間は、予定を書き込み、日付に意味を与える。だが、カレンダそのものは、ただ静かに日々を並べている。 美しさとは、変わらぬことではない。変わりながら、整っていることだ。 猫は、暦を持たぬ。だが、朝の光と、夜の気配で、日を知る。 それでも、一枚の紙 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/22

吾輩は猫である ―猫シェアハウス編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 最近、家の中に猫が増えた。理由は知らぬ。だが、皿は増え、寝床も増えた。 人間はこれを、シェアハウスと呼ぶらしい。 猫は、群れぬ。だが、共にいることはある。 距離を保ち、場所を分け、干渉しすぎぬ。それで、だいたいうまくいく。 窓辺は人気だ。日当たりは、早い者勝ち。だが、長く居座ると、無言の圧が来る。 皿の順番、水の場所、寝る位置。すべてに、言葉なきルールがある。 破れば、空気が変わる。守れば、何も起きない。 何も起きないことが、最も良い状態である。 人間は、仲良くすることを ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/3/16

吾輩は猫である ―戦争下の猫 編―

吾輩は猫である。名前はまだない。 街の音が、少し違う。遠くで低く響き、近くでは人の声が減る。 人間はこれを、戦争と呼ぶ。 昨日まで開いていた店は、半分閉じ、灯りは早く消える。空を見上げる時間が、増えた。 猫は、理由を知らぬ。国も、思想も、境界線も持たない。 それでも、変化はわかる。 餌は減り、足音は急ぎ、人の目には余裕がない。 猫は、静かに場所を変える。危うい通りを避け、安全な影を選ぶ。生き延びるとは、正しさよりも柔らかさである。 人は戦い、勝敗を語る。だが、瓦礫の上ではどちらの足跡も同じだ。 夜になると ...