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【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/7/6

吾輩は猫である ―富士山盛りお蕎麦編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが今日、目撃したのは――蕎麦の山である。 「富士山盛りお願いします!」飼い主の声は妙に張りがあり、厨房から「はい、登山一丁!」と返ってきた。登山? それは人間のメタファーというやつか。 運ばれてきたのは、高さ30cmはあろうかという蕎麦の塔。天辺には海苔がふわり、つゆは別小鉢。店内の空気がざわめき、スマホのカメラが集まる。 吾輩は思った。この量、食べたいのか。食べたいと思いたいのか。 飼い主は箸を構え、登頂を開始。「いただきます!」一口、二口……だがすぐに表情が曇る。「…… ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/7/6

吾輩は猫である ― ルンバとの心理戦編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが今日も、円盤型侵略者との戦いに備えている。 名を「ルンバ」。人間が“便利な掃除機”などと言うが、吾輩からすれば――定時で襲来する静音の脅威である。 午前10時、定刻通り“あいつ”が起動。カタカタ…という機械音とともに、床の一点をひたすら磨き始める。その動きは不規則、かつ執拗。寝床の下にも容赦なく侵入する。 吾輩は動かぬ。ここが戦場であるならば、まずは“目を合わせぬ”のが鉄則。動けば負け。動かねば、家具と認識される。 だがルンバは賢くなっている。一瞬、吾輩に進路を合わせて向 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/7/6

吾輩は猫である ― 参議院選挙(SNS注意)編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが今日も、飼い主のスマホから聞こえる言葉を聞き逃さない。 「この候補はダメ」「こっちはマシ」「どれも同じじゃん」参議院選挙が近づき、タイムラインは炎のようにざわついている。 飼い主は寝転がってスマホをスクロールしながら、ときおり眉をひそめ、たまに口角を上げ、そして、誰かの投稿をシェアした。 その言葉、ほんとうに自分の声か? 猫は言葉を持たぬ。だからこそ、言葉の重さをよく観察している。一度つぶやけば戻らず、スクリーンに刻まれた感情が、誰かを傷つけることもある。 「陰謀」「売国 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/7/6

― 吾輩は猫である ― 東京カレンダー(表紙)編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが今月の『東京カレンダー』表紙に抜擢された。 撮影場所は麻布のレストラン、夜景を背にしたバーカウンターの上。グラスの水を傾けるでもなく、ただ静かに、吾輩はポーズを決める。 テーマは――「夜に溶ける、孤高の猫」。 スタイリストは言った。「毛並みがシルクですね。ライティングが映えます」ふん、分かっておる。東京とは、“見られること”に意味がある場所なのだ。 だが撮影後、飼い主はぽつりと呟いた。「この子、ほんとは家じゃ煮干しが好きでね。 表紙に写ってるキャビアには見向きもしないんで ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/7/6

吾輩は猫である ― ミッション・インポッシブル(猫)編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが今夜ばかりは、コードネーム「シャドウ」。任務はただ一つ――飼い主の焼き魚を、無傷で確保せよ。 作戦開始は、21時12分。飼い主が風呂へ突入したタイミングを見計らい、吾輩は静かに着地音ゼロで台所へ侵入。 障害①:キッチンの腰高カウンター。滑る。高い。だがキャットタワーで鍛えた跳躍力で無音突破。 障害②:焦げた秋刀魚から発せられる匂い。強すぎる…!鼻を鳴らせば位置がバレる。ここは平常心、深呼吸。 だが最大の難関は、あの“赤外線センサー”――そう、見張り役のルンバである。夜間モ ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/7/6

吾輩は猫である ― ふみふみ編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが、飼い主のブランケットを見れば、ふみたくなる衝動がこみあげてくる。 ふみふみ。前足を交互に出して、ぎゅっ、ぎゅっ。毛布が柔らかいと、つい本能が目を覚ます。 飼い主は言う。「出た、“ふみふみ”タイムね。赤ちゃんみたい」笑われようとも、これは吾輩の無言の祈りである。 あたたかい場所、やわらかな匂い、母の胸を探すような仕草。 ――けれど、今この瞬間、吾輩がふみふみしているのは、飼い主のひざの上だ。 忘れても 本能だけが 覚えてる ふみふみは甘えだけじゃない。信頼の証であり、安心 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/7/1

吾輩は猫である ― 会社が好きすぎる猫編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが「社ネコ」と呼ばれている(らしい)。 きっかけはテレワーク。飼い主が毎日パソコンを開き、電話に出たり、「MTG入ります」とか言って静かになったり。その横にぴたりと寄り添うのが、吾輩の日課だった。 会議中に顔を出せば「かわいいですね」と評判になり、画面越しに“社員証つけて”という声もあった。まさに吾輩、社風の一部と化していたのである。 だがある日、飼い主が言った。「明日からは出社よ。会社、行ってきます」 ……なぬ?吾輩はどうなる?職場の椅子も、デスクのにおいも知らぬまま、置 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/7/1

吾輩は猫である ― 七夕、年に一度の再会編―

吾輩は猫である。名はもう覚えている。あの人が呼ぶ、やわらかな声の響きとともに、毎年よみがえるのだ。 今夜は七月七日。年に一度だけ、あの人が帰ってくる。遠くの国で働いているらしく、普段は画面の中にしかいない。 飼い主の母が言った。「今日は七夕ね、あの子もそろそろ来る時間よ」 玄関の音に耳を澄ませ、吾輩はいつもと違う毛づくろいをする。鼻先からしっぽの先まで、丁寧に。 そして、開く扉。「ただいま」 その声に、全身の毛がふわりと立つ。吾輩は忘れていないのだ。一年のうち、この一瞬のために生きているような時間を。 飼 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/6/29

吾輩は猫である ― エアコンクリーニング編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だがこの家で、一番風の流れに敏感な存在である。 いつもの場所で昼寝をしていると、突然、天井の機械が異音を立てた。「ぶおっ…」「ギギギ…」――これは異常だ。さっそく吾輩は監視体勢に入る。 数時間後、マスクと脚立を携えた男たちがやってきた。飼い主が言う。「エアコンクリーニング、頼んだのよ」 なるほど。風の出処に人間が群がっているのはそのためか。 脚立の上で、パネルを外し、奥の部品を洗う。黒い水が流れ落ちる様子を見て、吾輩は悟った。この涼しさの裏に、これだけの汚れが潜んでいたのか― ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/6/29

吾輩は猫である ― 長毛ヘアカット篇 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが、毛はある――ふさふさと、たっぷりと。 世に長毛種と呼ばれる猫の中でも、吾輩は誇り高き“モフ界”の住人である。冬場は暖かく、写真映えは抜群、撫でられれば「高級ラグ」とまで言われたこともある。 しかし――夏が来た。毛玉が増え、蒸れてかゆい。飼い主の目が、日に日に“覚悟”の色を帯びてゆく。 「ちょっと切ろうか。ね、少しだけ」――その“少し”が、信用ならないのだ。 いざペットサロンへ。バリカンの音、スタッフの笑顔、そして…毛、毛、毛!床には吾輩の毛が、まるで冬の終わりの雪解けの ...