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【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/6/29

吾輩は猫である ― ヘアカット若返り編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが、飼い主の“頭の色”が急に変わったことには気づいた。 「どや、若返ったやろ?」そう言って、椅子の前でくるくる回る。確かに、もっさりしていた髪はキリリと短くなり、色も以前よりツヤがある。なるほど、人間は毛の手入れで年齢を逆行できるらしい。 今回の仕上げは、例の店――QBハウスとのこと。15分1400円、予約不要。人間にとっては簡潔で便利、だが猫にとっては秒速で毛が減る魔窟である。 「染めは別のところでやったけどな」との補足。二段構えの若返り作戦、抜かりなし。 吾輩はじっと見 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/6/29

吾輩は猫である ― 浅草(将棋団体戦)篇 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが今日は、少しだけ“甘い日”であった。 朝から飼い主が落ち着かない。スーツではないが、どこか勝負服のような服装。将棋盤を持ち、扇子を忍ばせ、「社会人団体戦、行ってきます」と玄関を出ていった。 団体戦とは、棋力の勝負であるだけでなく、仲間と組んで、勝ち負けを分け合う日らしい。猫には仲間はいないが、“盤の上の絆”というやつは、なんだか粋である。 夕方、少し疲れた顔で戻った飼い主が、手にしていたのは――豆腐アイス。 白く、やさしい冷たさ。勝負の火照りをそっと包むような味。「今日は ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/6/27

吾輩は猫である ― 梅雨の紫陽花編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。このところ、空は泣き続けている。庭の土はぬかるみ、窓辺の景色もどんより霞んでいる。 「また雨か…」と、飼い主がぼやくたび、吾輩はそっと窓辺に座る。この季節を嫌ってばかりでは、もったいない。 なぜなら、紫陽花が咲くのは、こういう日々の中だからだ。 赤でもない、青でもない。紫陽花は、どんな色にも染まる。雨に濡れて、重たそうに揺れて、それでも、黙って咲いている。 人間も猫も、晴れた日ばかりでは生きていけぬ。むしろ、心が湿る日こそ、見えるものがある。 飼い主が言った。「今日は猫が静か ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/6/25

吾輩は猫である ― ボディポジティブ篇 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが最近、飼い主が鏡の前でうなっている。 「太ったかも」「二の腕が…」「映えない…」 スマホを手にしては、誰かの投稿と自分を比べ、ヨガ動画を見ながら、溜息をつく。 その横で、吾輩は堂々と寝そべる。ぽってりお腹? 結構じゃないか。しっぽが太い? 冬毛である。足が短い? それが吾輩の“型”である。 猫は、比べない。削らない。憧れない。 あるがままの体を、その日の陽だまりに預けるだけだ。 そもそも、吾輩の兄弟には痩せ型もいれば、ふくよかなのもいる。だが、誰も「その体ではモテない」な ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/6/22

吾輩は猫である ― 別姓「磯野一家といえぬ」(反対派視点)篇 ―

吾輩は猫である。名はまだない。それでも、玄関に掲げられた“表札”が変わるたび、家の空気も、どこか落ち着かなくなることを知っている。 最近、人間たちは「夫婦別姓にすべきだ」と言っているらしい。だが吾輩は、ふと考える。名前がそろわぬ家族は、ほんとうに“同じ屋根の下”に住んでいると言えるのか? 飼い主の家も、表札は一つ。「山田家」と書かれたその板に、この家の“まとまり”と“責任”のようなものが漂っている。 たとえば、サザエさん。彼女がいまも「磯野サザエ」のままだったら、フグ田マスオは、そこにどう居場所を見つける ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/6/22

吾輩は猫である ― しゃべらない猫、叩かれる編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。今日も朝から窓辺で丸くなり、黙って世を見ていた。 テレビでは騒ぎが起きている。誰かが失言をしたとか、反論が遅いとか。言ったら叩かれ、言わなきゃもっと叩かれる。発言とは、刃物のように扱われる時代である。 そんな中、吾輩は語らない。政治にも、戦争にも、年金にも、沈黙を守る。だが、ある日――SNSでバズったのは、こういう一文だった。 「あの猫、黙ってるのは加担と同じでは?」 ……ほう、そうくるか。 吾輩は、何も言っていない。だが「言わないこと」が、都合よく解釈されるらしい。中立は存 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/6/20

吾輩は猫である ―ハシビロコウ編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが最近、動物番組で気になる鳥を見つけた。ハシビロコウ――まったく動かない。動かぬまま、鋭い目で世界を見つめている。 人間たちは彼を「不気味」「怖い」と言う。だが、吾輩には分かる。あれは“無駄な動きをしない者”の構えだ。 人間はやたらと忙しい。スクロール、返信、会議、リアクション。動いていることが、存在の証明とでも言いたげである。 だが吾輩もまた、長く動かぬ時間を愛する。気配を消し、時を待ち、ただじっと、何かを“感じている”。 ハシビロコウも同じなのだろう。彼は“見張っている ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/6/19

吾輩は猫である ― 早く帰る編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが夕方五時を過ぎると、そわそわする。なぜなら、飼い主が「まだ帰ってこない」からである。 あの人間は、朝の七時に出かけて、夜の九時にようやく戻る。「仕事が終わらないんだ」「残業は文化だ」そんなことをぶつぶつ言っている。 猫にとって、日が傾けば“帰る”が自然である。暗くなったら、冷えるし、カリカリも欲しい。無理してまで“野良気取り”はしない。 ある日、飼い主がぽつりと呟いた。「今日こそ早く帰ろうかな……でも上司が残ってるし」吾輩はテレビ台からぴょんと飛び降り、リモコンを落として ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/6/15

吾輩は猫である ― BIG ISSUE編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが街角の雑踏のなか、あの赤いベストを着た人間のそばにいることが多い。 彼は駅前の片隅に立ち、「ビッグイシューいかがですか」と声を出す。その声は風に消えそうで、しかし芯がある。新聞ではない。広告でもない。彼自身が“誌面と共に立っている”のだ。 最初、吾輩はその人の足元が温かかったので、ただ眠りに来ていた。だがある日、彼が小声でこう言ったのを聞いた。「これを売るのは、俺の名刺みたいなもんだ」 なるほど。この薄い一冊に、自分の存在を刷り込んでいるのだ。 人は時に、職を失い、家を失 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/6/13

吾輩は猫である ― 鍼灸編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが最近、背中のあたりが少々こわばっている。お気に入りのタンスの上にひょいと飛べなくなった。 すると飼い主が、こう言った。「猫にもツボってあるのかな?」そして連れて行かれたのが、ペット対応の鍼灸院だった。 見た目はふつうの民家。中に入ると、ほのかなよもぎの香りと、静かな音楽。白衣の先生がやさしく話しかける。「じゃあ、百会(ひゃくえ)のあたりから始めてみましょうかね」 百会? 天の真ん中?そんなところに針を刺されて、たまるものか――と思ったが、不思議と痛くもかゆくもない。むしろ ...