吾輩は猫である。名はまだない。だが、“父”である。 ある日、路地裏で小さな鳴き声がした。ふと見ると、まだヨチヨチ歩きの仔猫が三匹。母猫はいなかった。置いていかれたのか、亡くなったのか。吾輩は迷った末――そこに座った。 「父になろう」と決めたのは、べつに偉いことではない。ただ、ほっておけなかったのだ。 最初の夜は、仔猫たちが吾輩の尻尾で遊んで眠った。次の日は、エサ場を案内した。三日目には、カラスから身を挺して守った。 誰かが言った。「オス猫にしては、面倒見がいいな」 吾輩は応えない。だが、仔猫が無事に生きて ...