吾輩は猫である。名はまだない。 この町から、将棋の世界で名を上げる若者が出たと聞いた。飼い主は新聞を広げ、テレビを食い入るように見つめている。「同郷の棋士だぞ」と誇らしげに呟く。 将棋盤の上では、木駒がカツンカツンと響く。その音は吾輩の耳に、爪を研ぐ音や、魚の骨をかじる音に似て心地よい。 猫の世界にも陣取り合戦はある。日なたの場所をめぐってにらみ合い、しっぽを高く掲げて一歩ずつ進む。人間の将棋は、その知恵比べを盤上に凝縮したものだろう。 飼い主は棋士の一手一手に一喜一憂する。「勝てば郷土の誉れ」「負けても ...