吾輩は猫である。名前はまだない。 車ごと、海へ入っていく。正確には、船の中へ入るのだが、最初は少し驚く。 人間はこれを、フェリーと呼ぶ。 走っていたはずなのに、急に止まる。だが、移動は続いている。 不思議な感覚だ。 吾輩は、まず様子を見る。音、振動、揺れ。いつもの車と、少し違う。 だが、エンジンは止まり、空気は静かになる。 それは、悪くない。 高速道路のように、常に気を張る感じもない。景色はゆっくり流れ、時間も少し遅くなる。 吾輩は思う。フェリーとは、「急がぬ移動」なのだと。 速さではなく、揺られながら進 ...