吾輩は猫である。名はまだない。このところ、空は泣き続けている。庭の土はぬかるみ、窓辺の景色もどんより霞んでいる。 「また雨か…」と、飼い主がぼやくたび、吾輩はそっと窓辺に座る。この季節を嫌ってばかりでは、もったいない。 なぜなら、紫陽花が咲くのは、こういう日々の中だからだ。 赤でもない、青でもない。紫陽花は、どんな色にも染まる。雨に濡れて、重たそうに揺れて、それでも、黙って咲いている。 人間も猫も、晴れた日ばかりでは生きていけぬ。むしろ、心が湿る日こそ、見えるものがある。 飼い主が言った。「今日は猫が静か ...