吾輩は猫である。名はまだない。だが、夜のオフィスに忍び込むのが日課である。 昼間は人間たちであふれていたこの空間も、夜9時を過ぎれば別世界。蛍光灯の明かりは半分、キーボードの音だけがコツコツと響く。 吾輩は、あの部署のあの席へと向かう。そこには、いつも同じ顔のサラリーマン。眼鏡の奥の目は充血し、冷えたコーヒーが三杯並んでいる。 書類の山、赤く染まったエクセル、メールの「件名:至急」それらに囲まれながら、この人間はまるで何かを罰するように働いている。 吾輩は、プリンターの上から見下ろす。「もう、帰っていいの ...