吾輩は猫である。名はまだない。 今宵、木挽町の大舞台。定式幕がすっと引かれると、太鼓の音が鳴り渡り、笛が澄んだ調べを奏でた。観客の視線が一斉に花道へ注がれる。 そこに現れたのは――吾輩。役は「招き猫三番叟」。毛並みは黒白のまだら模様、鈴を胸元に飾り、緋色の衣をまとって進む。 足取りをすり足に合わせ、途中で見得を切ると、客席から「にゃーっ!」と声が飛ぶ。人間の「成田屋!」に劣らぬ掛け声だ。 舞台の最後、大きな鯛が吊り下げられる。吾輩は勢いよく飛び移り、しっぽを高々と掲げた。拍手が鳴りやまず、照明がまばゆく降 ...