吾輩は猫である。名はまだない。だが、この寺では「国宝様」と呼ばれている。 きっかけは数年前、観光客の老婆が言った「この猫、仏像みたいね」それを聞いた住職が笑い、本堂の縁側に吾輩専用の座布団が敷かれた。 朝は鐘の音とともに起き、昼は団体客の影に溶け、夕暮れには本堂の階段で、沈む陽を見送る。 写真を撮る者、拝む者、投げ銭する者。「ご利益ありますように」と言われるたびに、吾輩はあくびを返す。ありがたみとは、たぶん静けさの中にあるのだ。 ある日、テレビが来た。「この猫が国宝級の癒しです!」と。次の日から行列ができ ...