吾輩は猫である。
名は信虎。家の長であり、群れのまとめ役だ。
ある日、縁側で昼寝をしていると、
庭からドタドタと足音が近づいてきた。
先に顔を出したのは葵。
淡い毛色とおっとりした性格の雌猫で、
花の香りをまとってやって来る。
「信虎兄さま、今日は探検に行きませんか?」
その後ろから、茶色の縞模様の獅子丸が飛び出す。
好奇心の塊で、じっとしていられぬ若猫だ。
「探検といえば、あの廃屋か?」と吾輩。
すると、最後に姿を現したのは沙羅。
長毛の美しい雌猫で、群れの中では一番の冷静派だ。
「廃屋なら気をつけたほうがいいわ。
この前、カラスが巣を作っていたから」
結局、吾輩はみんなを連れて廃屋へ向かった。
獅子丸は先陣を切り、葵は花の種を見つけては立ち止まる。
沙羅はしんがりを務め、周囲に目を光らせる。
まるで小さな隊列だ。
廃屋の軒下に着くと、
陽の光に舞う埃が金色に輝いていた。
獅子丸が屋根裏を覗こうとした瞬間、
カラスが羽音を立てて飛び出す。
葵が驚いて鳴き、沙羅が素早く前に出る。
吾輩はしっぽを高く掲げ、退却の合図を送った。
帰り道、全員が無事なのを確認して、
縁側で並んで毛づくろいをする。
探検は失敗だったかもしれないが、
群れで動くことの頼もしさを改めて感じた。
吾輩は信虎である。
葵の優しさ、獅子丸の勇気、沙羅の冷静さ――
それらがあってこそ、この群れは成り立っているのだ。