吾輩は猫である。名はまだない。
だが今日は特別な日、飼い主に連れられて「アニメート」なる聖地に足を踏み入れた。
ビルの中はポスターとキャラクターグッズで埋め尽くされ、
あちらこちらから歓声が上がる。
葵はキラキラした目で「可愛い〜!」と声を上げ、
獅子丸はフィギュア棚に飛び乗ろうとしてスタッフに止められた。
沙羅はというと、冷静に同人誌コーナーの行列を観察している。
ふと、隣で大きな声が響いた。
英語と中国語が入り混じり、リュックを背負った海外の観光客たちが、
熱心に推しキャラを語り合っている。
吾輩のしっぽが動いた。――これが国際交流というやつか。
彼らは日本語が少し拙くても、
「好き!」という気持ちで身振り手振りを重ねる。
葵が近づき「にゃあ」と鳴くと、
「Kawaii!!」と歓声が返ってきた。
獅子丸は得意げにしっぽを高く掲げ、
まるで「俺も推されている」と言わんばかりだ。
沙羅がぽつりと呟いた。
「言葉が違っても、“好き”は伝わるのね」
帰り際、外国の少女がそっと猫型キーホルダーを差し出してくれた。
飼い主が「Thank you」と受け取ると、少女は嬉しそうに笑った。
吾輩は心の中で答えた。
“ありがとう。吾輩もまた、ここでひとつの物語をもらった。”
アニメートはただの店ではない。
猫も人も、世界のファンがつながる交差点なのだ。