吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ― 猫と立山 編―

2025年11月8日

吾輩は猫である ― 猫と立山 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

この地は立山。
空に手が届くほどの峰々が、
静かに白い息を吐いている。
山の風は冷たく、
けれどどこか懐かしい匂いがする。

吾輩は、山小屋の縁側で暮らしている。
登山客が通るたびに、
「猫がいるぞ!」と声を上げる。
だが吾輩にとっては、
この山こそがふるさとであり、寝床であり、世界のすべてである。

朝は雲海の上に陽が昇る。
鳥が鳴き、雪解けの水が音を立てて流れる。
夜は星が近く、風が遠い昔の声を運んでくる。
この山には、神が宿るという。
なるほど、そうかもしれぬ。
人も猫も、その神のまなざしの中で
ほんの短い時間を生かされているのだ。

時折、吾輩はホテル立山の裏手まで歩く。
観光客の笑い声、温かな灯り、
そして立山の影が長く伸びる黄昏。
その静けさの中に、
山と人の共存という不思議な調和がある。

吾輩は猫である。名はまだない。
だが、ここに吹く風の音を聞いていると、
生きることの意味が少しだけ分かる気がする。

雲の上 猫も祈りて 春を待つ


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gonta

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