吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ― まくろいくら丼、鮭しらす丼 編 ―

2025年7月30日

吾輩は猫である ― まくろいくら丼、鮭しらす丼 編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。
だが、魚の香りを5km先から感知する能力がある。

ある日の昼。
飼い主が大きな紙袋をぶら下げて帰ってきた。

「ふふふ…今日のお昼は豪華だよ〜」
キッチンに並べられた二つの丼。
ひとつはまくろいくら丼
もうひとつは鮭しらす丼

蓋を開けた瞬間、
この世すべての“魚力”が解放された。

湯気よりも 誘惑立ちのぼる 昼の膳

飼い主は嬉々として言う。
「今日は“自分へのご褒美”ってやつ」
ふむ、ならば吾輩にも日々の癒しの対価が必要ではなかろうか。

一歩、また一歩と近づく吾輩。
テーブルの端に手をかけ、
「なあ、ひとくち…そのいくら…」というまなざしを送る。

だが飼い主、冷静。
「猫はだめー!塩分すごいんだから!」

…知っている。
塩分、醤油、わさび、猫の敵。
だが本能が、とろけるまぐろの赤に呼ばれるのだ。

仕方なく、吾輩は空箱の中に入ってみせた。
それがせめてもの、食事への抗議と参加の意思表示である。

飼い主は笑った。
「じゃあ今度は、猫用の焼きささみ丼作ろうか」
――うむ、妥協としては悪くない。

丼が空になっても、
香りだけは部屋に残る。
そして吾輩はその匂いの記憶で、
午後の昼寝をふくふくと続けるのだ。


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gonta

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