吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ―富士山盛りお蕎麦編 ―

2025年7月14日

吾輩は猫である ―富士山盛りお蕎麦編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。
だが今日、目撃したのは――蕎麦の山である。

「富士山盛りお願いします!」
飼い主の声は妙に張りがあり、
厨房から「はい、登山一丁!」と返ってきた。
登山? それは人間のメタファーというやつか。

運ばれてきたのは、
高さ30cmはあろうかという蕎麦の塔。
天辺には海苔がふわり、つゆは別小鉢。
店内の空気がざわめき、スマホのカメラが集まる。

吾輩は思った。
この量、食べたいのか。食べたいと思いたいのか。

飼い主は箸を構え、登頂を開始。
「いただきます!」
一口、二口……だがすぐに表情が曇る。
「……冷めてる」「……飽きる」
なにやら、頂上は遠いらしい。

量よりも 美味しさ選ぶ 猫の知恵

吾輩は、茶碗一杯のカリカリをきちんと味わう派である。
高みを目指すのも結構だが、
登った先に何があるかも、考えてほしい。

やがて飼い主は箸を置き、
「もうムリ……写真撮れたし満足」と笑った。
なるほど、登ることより、証拠を残すことが目的だったか。

店主がやってきて、「猫ちゃんは食べないの?」と聞く。
吾輩はぴしゃりと答えぬまま、
ただ茶をすする飼い主の背を見つめていた。


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gonta

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