吾輩は猫である。名はまだない。
飼い主が机に向かって数字とにらめっこをしている。
黒板には「偶数はすべて二つの素数の和で表せる」と書かれている。
これが「ゴールドバッハ予想」なるものらしい。
吾輩は数字より煮干しに興味があるが、
飼い主の真剣な顔を見ているうちに考え込んでしまった。
偶数とは、吾輩に言わせれば魚二匹。
それを二つの素数――
例えばアジとサバに分ければ、
確かに晩ご飯は成立する。
しかし問題は、どんな偶数でも必ず二匹に分けられるかどうか。
もし魚が三匹しか手に入らなかったら?
いや、足りぬ時は昼寝でごまかすのが猫の知恵。
人間はそれを証明と呼ばぬらしい。
数学者は何百年もこの謎に挑んでいる。
答えはまだ出ていないが、
挑む姿こそが人間の強さだと吾輩は思う。
猫にとって解けぬ謎は、
ただ夢の中で遊ぶおもちゃのようなものだからだ。
吾輩は猫である。名はまだない。
だが今日も窓辺でひげを震わせ、
数字の森に迷い込む飼い主を見守っている。
素数追い 夢に数えて 眠る猫