吾輩は猫である。
名前はまだない。
箱に入れられ、
揺れに乗る。
音も匂いも、
いつもと違う。
人間はこれを、
帰省と呼ぶ。
遠くへ行き、
元の場所へ戻る。
それだけのことだが、
心の動きは少し複雑だ。
着いた先は、
見慣れぬようで、
どこか懐かしい。
人の声も、
空気の流れも、
微妙に違う。
吾輩は、
まず隠れる。
安全な場所を見つけ、
様子を見る。
急がぬ。
慣れは、
時間でしか来ぬ。
人間は、
すぐに打ち解ける。
笑い、
語り、
過去を重ねる。
だが、
猫は知っている。
過去と今は、
同じではないと。
少しずつ、
距離を縮める。
一歩ずつ、
空間を広げる。
やがて、
座る場所が決まる。
それで、
十分だ。
吾輩は猫である。
旅は好まぬ。
だが、
戻る場所の意味は知っている。
帰省とは、
変わった自分で、
変わらぬ場所に触れることなのだ。
戻るほど
違いに気づく
我が居場所