吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ― 猫歌舞伎 編―

2025年9月17日

吾輩は猫である ― 猫歌舞伎 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

今宵、木挽町の大舞台。
定式幕がすっと引かれると、
太鼓の音が鳴り渡り、笛が澄んだ調べを奏でた。
観客の視線が一斉に花道へ注がれる。

そこに現れたのは――吾輩。
役は「招き猫三番叟」。
毛並みは黒白のまだら模様、
鈴を胸元に飾り、
緋色の衣をまとって進む。

足取りをすり足に合わせ、
途中で見得を切ると、客席から「にゃーっ!」と声が飛ぶ。
人間の「成田屋!」に劣らぬ掛け声だ。

舞台の最後、大きな鯛が吊り下げられる。
吾輩は勢いよく飛び移り、
しっぽを高々と掲げた。
拍手が鳴りやまず、照明がまばゆく降り注ぐ。

幕が下りると、楽屋の静けさが戻る。
化粧を落とす必要のない吾輩は、
ただ毛づくろいをして息を整えた。
今日も役を全うできたことに、
胸の奥で小さな誇りが芽生える。

吾輩は猫である。名はまだない。
だが今宵、舞台の一隅を照らした一匹であった。

花道を にゃあと渡れば 春の月


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gonta

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