吾輩は猫である。名はまだない。
この町では今日は「敬老の日」だという。
人は年長者を敬い、感謝を伝える日らしい。
だが猫の世界でも、長く生きることは誇りである。
路地裏の古株の三毛は、齢二十を越えた。
耳は遠くなり、足取りはゆっくりだが、
眼差しは今も若き日の狩人のままだ。
吾輩たちは自然と頭を下げ、
その背中に教えを受けてきた。
長寿の猫には、物語が刻まれている。
港の変わりゆく景色を見届け、
世代ごとの人間に可愛がられ、
何度も季節を乗り越えてきた証だ。
人は花束や贈り物を用意するらしい。
猫にとっては、
陽だまりの座布団と、
柔らかな撫で手こそ最高の贈り物だろう。
吾輩は今日、古株の三毛の隣で丸くなり、
静かに喉を鳴らした。
その低い振動は「ありがとう」の言葉に違いない。
吾輩は猫である。名はまだない。
だが、猫の敬老の日をこうして祝えるのは、
未来への希望を共に見ているからだ。
長寿猫 毛並みは白く 眼は澄みて