吾輩は猫である。名はまだない。
だが今夜、表紙に載る猫としての誇りがある。
撮影場所は渋谷の高層階、会員制レストラン。
バーカウンターの向かいに座るのは、白石麻衣。
シャンパングラスを傾ける指先、
夜景を背にしたまなざし。
その静けさに、吾輩は――
吠えぬ強さと、笑わぬ優しさを見る。
「この子、すごく落ち着いてるんですね」
白石は、吾輩の隣にそっと手を添えた。
体温は高すぎず、爪も立てない。
ふと感じた、似た者同士の気配。
人前に出る仕事をしながらも、
どこか距離を保ち、自分の領域は譲らない。
――猫と女優。
異なるようで、孤独の質は似ているのかもしれない。
寄り添って 語らぬ夜の 美しさ
表紙の撮影は数分で終わった。
けれど、その一瞬に写ったものは、
夜景でもブランドでもなく、
都会の孤独をまとった2つの影だった。
白石は去り際、囁いた。
「また共演したいな」
吾輩はまばたき一つで返した。
言葉はいらぬ。
東京の夜は、沈黙すら演出になる。