吾輩は猫である。名はまだない。
今日は元町の通りがひときわ賑やかだ。
「チャーミングセール」とやらで、
人間たちは大きな紙袋を抱え、
目を輝かせて店々を渡り歩いている。
赤や青の値札が風に揺れ、
「半額」「限定」の文字が並ぶ。
吾輩には数字の意味はわからぬが、
人間の尻尾――いや、歩みの速さを見るに、
相当お得らしい。
ブランドの店先で試着する人々、
カフェのテラスで戦利品を語る声。
その足元を、吾輩はすり抜ける。
時折、甘いワッフルの香りが漂い、
鼻先がぴくりと反応する。
考えてみれば、
猫にとっての「セール」とは、
魚屋の軒先に落ちた切れ端や、
夕方に投げてもらえる煮干しの余り。
人間も猫も、得を探す目は変わらぬらしい。
日が暮れるころ、通りは紙袋の山。
疲れた顔も、どこか満ち足りて見える。
吾輩は石畳に座り、
その光景をじっと見届けた。
吾輩は猫である。名はまだない。
だが今日も確信した――
買い物とは腹を満たすだけでなく、心を踊らせるものだと。
値札より しっぽで測る 幸せよ