吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ― 猫神様 編 ―

2025年9月7日

吾輩は猫である ― 猫神様 編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。
だが、この町では「猫神様」と呼ばれている。

きっかけは偶然だった。
ただ神社の屋根で昼寝をしていただけなのに、
参拝に来た人が手を合わせ、
「ご利益がありますように」と頭を下げたのだ。

次第に噂は広まり、
受験生は「合格祈願に猫神様」、
商人は「商売繁盛を猫神様」、
恋する娘は「縁結びも猫神様」とやって来る。
吾輩はただ、鈴虫の声を聞きながら
のんびり毛づくろいしていただけなのに。

ある日、子どもが怪我をした足を引きずって神社に来た。
吾輩はそっと足に寄り添い、
しっぽでちょんと触れた。
それだけで「治るかも!」と笑顔になった。
――どうやら信じる心こそ、最大の薬らしい。

夜になると、神主がつぶやいた。
「不思議なものだな。
君はただの猫なのに、人々を癒やしている」

吾輩は答えない。
ただ拝殿の前で背を伸ばし、月明かりを浴びる。
猫神様とは、信じた人の心に宿る姿なのだ。

吾輩は猫である。名はまだない。
しかし今日も誰かが手を合わせている。
その祈りを、胸の毛にそっと受け止めて眠るのだ。


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gonta

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