吾輩は猫である。名はまだない。
だが、町内で最近囁かれているのは「ネコノミクス」なるものだ。
発端は魚屋の値上げである。
鯵が一尾20円高くなったと聞けば、猫たちの暮らしは直撃を受ける。
「給料(=カリカリ)は増えぬのに、物価ばかり上がるにゃ」
獅子丸は尻尾を打ちつけ、不満を漏らした。
そこで古株の沙羅が提案した。
「魚屋に頼るばかりではなく、独自通貨“キャットコイン”を発行しましょう」
すぐさま路地裏で流通が始まり、
カリカリ一粒=1コインのレートが定められた。
だが、葵がこっそり隠したマタタビを担保にしたことで、
通貨価値は一気に暴騰。
ネコノミクスは「マタタビ・バブル」と化し、
路地裏は一夜にして投機場となった。
やがてバブルが弾け、
紙幣代わりの魚の骨は散らばり、
猫たちは呆然とした。
「やはり労働(=人間に甘えること)が基本にゃ」
信虎が落ち着いて言うと、
皆が「ごろごろフォース」(喉鳴らし)で合意した。
結局、物々交換と人間の庇護に戻るしかない。
だがその騒動を経て、
猫たちは「食べすぎず、昼寝こそ最大の経済安定策」と悟ったのである。
吾輩は猫である。名はまだない。
ネコノミクスの本質とは――
腹八分目と日向ぼっこ、それに信頼の通貨“にゃあ”である。