【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

吾輩は猫である ―猫ラーメン 編―

2025年12月9日

吾輩は猫である ―猫ラーメン 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

ある夜、飼い主が帰宅すると、
部屋いっぱいに湯気と香りを広げた。
どうやら人気店のラーメンをテイクアウトしてきたらしい。

その瞬間、吾輩の鼻先を
とんでもない匂いが襲った。
豚骨と醤油と魚介の、
人間が「禁断の旨味」と呼ぶやつである。

吾輩は思わず飼い主の足元へ。
しかし飼い主は困った顔で言った。
「ダメだよ、猫は食べちゃいけないの。」

――知っている。
塩分も脂も強すぎるのだ。
だが、この香りはどうだ。
夜の空気を震わせ、
人間の魂を揺さぶるほどの破壊力がある。

飼い主が麺をすすり始めると、
ズルルルッという音が
まるで演奏のように聞こえた。
湯気の向こうで目を細めるその表情は、
まるで悟りを開いた僧侶のようである。

吾輩はそっと隣に座り、
せめて気配だけ味わうことにした。
香り、湯気、音――
それらが合わさった瞬間を“ラーメン”と呼ぶのだろう。

最後に飼い主は、小さくつぶやいた。
「これ、明日も行列できるだろうなぁ……」
吾輩は喉を鳴らした。
人間の情熱とはつくづく不思議なものだ。

吾輩は猫である。名はまだない。
だが、ラーメンという料理が
人間の心をあれほど満たすなら、
吾輩は今日もその湯気のそばで寄り添っていよう。

湯気の香 食べられぬゆえ 春恋し


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gonta

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