吾輩は猫である。名はまだない。
路地裏の集会所――魚屋の裏手に、
四匹の猫が顔をそろえた。
男猫は黒と虎、女猫は三毛と白。
皿の上には焼き魚一尾。
これが恋と食事の駆け引きの始まりであった。
黒猫はさっそく身を差し出し、
「どうぞ先に」と三毛に譲る。
虎猫はその隙に、白猫へ鯛の骨を押しやり、
「君に似合う」と口説く。
三毛は黒猫の誠実さに目を細め、
白猫は虎猫の押しに頬を赤らめる。
だが魚は一尾しかない。
四匹の視線が交わると、
恋も食欲も入り混じった緊張が走る。
結局、身の大きい虎猫が先にかぶりつき、
黒猫は静かに尻尾を巻いた。
三毛は少し怒って虎猫を睨み、
白猫は笑って残りを分け与える。
恋とは魚のようなものだ。
奪えば苦みを残し、
分け合えば甘みを増す。
吾輩は遠くからその様子を眺め、
ただ一匹、悠々と夕日の下で毛づくろいをした。
恋も食も、欲張らぬ者の方が長く楽しめるのかもしれぬ。
恋もまた 魚のように 分け合えば