吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ― 百日咳と猫の咳 編―

2025年10月29日

吾輩は猫である ― 百日咳と猫の咳 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

このところ、飼い主の咳が止まらぬ。
夜になると胸を押さえては苦しそうにしている。
医者の話では「百日咳」らしい。
百日――人間にとっては長いが、
吾輩にとっては、春がひと巡りするほどの時間だ。

そんなある晩、吾輩も喉がこそばゆくなり、
思わず「コッ」と鳴いた。
飼い主が目を丸くして言う。
「まさか、君まで?」

病院に行くわけにもいかぬ吾輩だが、
飼い主は部屋の温度を整え、
加湿器をつけ、
毛布をそっと掛けてくれた。
その手つきは、
まるで自分が看病されているかのように優しかった。

翌朝、飼い主の咳は少しおさまり、
吾輩も落ち着いた呼吸を取り戻した。
どうやら、病も心配も、
分け合えば半分になるらしい。

窓の外では春の雨がしとしとと降っている。
その音を聞きながら、吾輩は思った。
命というのは、
咳ひとつにも互いを映すものなのだと。

吾輩は猫である。名はまだない。
だが今日も、この家で呼吸をひとつ――
共に生きている。

咳の音 重ねて響く 春の雨


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gonta

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