吾輩は猫である。名はまだない。
このところ人間の世界では、
「総裁選を前倒しする」という話で持ちきりらしい。
新聞が騒ぎ、テレビが連呼し、
飼い主までもスマホを覗きながら「誰が立つか」と呟いている。
猫の世界でも似たことはある。
路地裏のボスの座をめぐり、
次の季節を待たずに争いが始まるのだ。
魚屋の裏を縄張りにするか、
それとも市場の残飯を抑えるか。
利害がからめば、先に仕掛けた方が有利――
それは人間も猫も変わらぬ理である。
ただ、猫の選挙は単純だ。
強さと度胸、
そして誰よりも大きな声で「にゃあ」と鳴けるかどうか。
政策だの派閥だのはない。
その分だけ潔く、
結果が出れば翌日には並んで日向ぼっこをする。
人間の総裁選はどうだろう。
前倒しの裏には思惑が渦巻き、
猫には到底わからぬ計算があるようだ。
だが吾輩の目には、
しっぽを高く掲げて互いに威嚇し合う猫たちと、
どこか重なって見えてならない。
吾輩は猫である。名はまだない。
ただ、ひとつだけ願うのは――
この騒ぎのあと、人間の暮らしに
少しでも穏やかな日向が戻ることである。
政争も 日向の場所を 探すのみ