吾輩は猫である。名はまだない。
だが今日は、少しだけ“甘い日”であった。
朝から飼い主が落ち着かない。
スーツではないが、どこか勝負服のような服装。
将棋盤を持ち、扇子を忍ばせ、
「社会人団体戦、行ってきます」と玄関を出ていった。
団体戦とは、棋力の勝負であるだけでなく、
仲間と組んで、勝ち負けを分け合う日らしい。
猫には仲間はいないが、
“盤の上の絆”というやつは、なんだか粋である。
夕方、少し疲れた顔で戻った飼い主が、
手にしていたのは――豆腐アイス。
白く、やさしい冷たさ。
勝負の火照りをそっと包むような味。
「今日は熱かったな。でもこのアイス、沁みるわ」
吾輩も少しだけもらった。
ミルクではない、けれど淡く甘い。
それは、勝っても負けても、“よくやった”と思える味がした。
白星も 白いアイスも 沁みる夜
団体戦は終わったが、
明日も盤は続くのだという。
勝ち数だけで測れない戦いが、そこにあるらしい。
吾輩は今日、飼い主の隣で静かに寝転ぶ。
その一局一局に、ちゃんと汗と工夫があったと、
豆腐アイスが語ってくれているからだ。