吾輩は猫である。名はまだない。
だが、小さな命には敏い。
公園の片隅に、小さな段ボールがあった。
中には、まだ目も開かぬ仔猫が三匹。
鳴き声はかすれていたが、力はあった。
「捨てられている」と人間は言った。
だが吾輩から見れば、あれは、まだ希望を手放していない命である。
すぐそばでは、小学生が蟻を観察していた。
「すごいよ、ちゃんと並んで歩いてる」
その声に、吾輩は耳を傾ける。
小さきものを見つけ、尊び、語る声は、
いつだって未来の兆しだ。
飼い主の祖父は、庭の朝顔に水をやる。
「今年はひとつしか咲かなかったけど、それでも嬉しい」
そう言って笑う顔に、
吾輩はひそかに尊敬している。
世の中には、大きな声、大きな数字、大きなものが溢れている。
けれど、風に揺れる草、
カーテンの隙間から差す光、
そのすべての中に、小さな命がある。
吾輩は猫である。
その柔らかな肉球の下で、
どれだけの芽吹きと震えを感じてきただろうか。
今日もまた、
捨て猫の段ボールに人間が近づく。
その手は優しかった。
そして、そっと抱き上げると、
「家に連れて帰ろう」と言った。
小さな命に気づくことが、
この世界を救う第一歩であると、
吾輩は信じている。