吾輩は猫である。
名前はまだない。
気がつけば、
世界が淡く染まっている。
風に乗り、
白とも桃ともつかぬ色が、
空を満たす。
人間はこれを、
桜と呼ぶ。
咲くまでが長く、
咲いてからは短い。
その落差に、
人は心を動かされる。
満開は、
完成ではない。
終わりの始まりでもある。
花は、
咲いた瞬間から、
散る準備をしている。
それでも、
躊躇はない。
吾輩は、
木の下に座る。
花びらが一枚、
背に落ちる。
気にせぬ。
美しさとは、
留めるものではない。
流れるものだ。
人間は、
写真に収め、
記憶に残そうとする。
だが、
桜は知っている。
残らぬからこそ、
意味があると。
やがて、
風が少し強くなる。
花は舞い、
地に落ちる。
そして、
静かに季節が進む。
吾輩は猫である。
花を追わぬ。
だが、
散る様は見届ける。
桜とは、
終わりを受け入れてなお、
美しく在るということなのだ。
散るほどに
美しさ増す
春の色