吾輩は猫である。
名前はまだない。
朝、
気づけば花が落ちている。
音もなく、
気配だけを残して。
人間はこれを、
沙羅と呼ぶ。
咲いている姿より、
落ちた後に気づかれる花。
一日で散るとも言われ、
長くは留まらぬ。
だが、
短さは、
軽さではない。
一瞬に、
すべてを込める。
それが、
沙羅の在り方だ。
吾輩は思う。
長く続くことだけが、
価値ではないと。
短くても、
深ければ残る。
見逃されても、
確かに在ったものは消えぬ。
人間は、
目立つものを追う。
だが、
静かなものほど、
後から心に残る。
朝露の中で、
白い花が地にある。
誰も見ていなくても、
整っている。
それで十分だ。
吾輩は猫である。
花は咲かぬ。
だが、
散り際の美しさは知っている。
沙羅とは、
短さの中に
深さを宿す存在なのだ。
散りてなお
気づかれ残る
白き影