吾輩は猫である。
名前はまだない。
空気が、
やわらいでいる。
冷たさは残るが、
どこか丸い。
人間はこれを、
春の陽気と呼ぶ。
陽は高くなり、
風は軽くなる。
同じ部屋でも、
居場所が少し変わる。
冬に好んだ場所が、
少し暑い。
夏に避けた場所が、
ちょうどよい。
吾輩は、
光の中で伸びる。
無理なく、
ゆっくりと。
急ぐ必要が、
なくなる。
人間は、
新しいことを始める。
動き出し、
変わろうとする。
だが、
春はそれだけではない。
整える季節だ。
硬くなったものを、
少し緩め、
止まっていたものを、
静かに動かす。
無理はしない。
勢いでもない。
自然に、
そうなる。
吾輩は猫である。
計画は立てぬ。
だが、
変わるタイミングは知っている。
春の陽気とは、
力まずに
次へ進む合図なのだ。
やわらかき
陽に身をまかせ
次へ行く