吾輩は猫である。
名前はまだない。
何かが、
なくなった。
人間は慌てる。
鍵がない。
書類がない。
昨日ここに置いたはずの物が、
見当たらない。
人間はこれを、
事件と呼ぶ。
吾輩は思う。
事件とは、
大げさなものばかりではないと。
少しの違和感。
いつもと違う匂い。
動かした覚えのない物。
誰かの足音。
そこに、
手がかりはある。
猫は、
よく見る。
音を聞き、
匂いを嗅ぎ、
少し離れて様子をうかがう。
すぐには飛びつかぬ。
思い込みほど、
捜査を曇らせるものはない。
人間は、
「きっとここだ」と決めつける。
だが、
本当にそこにあるとは限らぬ。
だから、
一度戻る。
最後に見た場所。
最後に触った時間。
誰がいたか。
何が変わったか。
順番にたどれば、
案外、答えは近くにある。
吾輩は思う。
探偵とは、
特別な推理力を持つ者ではない。
小さな変化を、
見逃さぬ者なのだ。
そして、
わからない時に、
わかったふりをしない者でもある。
吾輩は猫である。
虫一匹の動きでも、
長く見続けることができる。
猫探偵とは、
派手に犯人を当てる者ではない。
急がず、
決めつけず、
静かに事実を積み重ねる者なのだ。
謎ひとつ
急がず見れば
尾が見える