吾輩は猫である。
名前はまだない。
人間は、
長い髪を一つにまとめることがある。
後ろで束ね、
軽く揺らし、
歩くたびに動く。
人間はこれを、
ポニーテールと呼ぶ。
吾輩は思う。
ずいぶん分かりやすい名前である。
馬の尻尾。
なるほど。
確かに、
少し似ている。
だが、
猫の尻尾とは少し違う。
猫の尻尾は、
気分まで表す。
嬉しければ立つ。
警戒すれば膨らむ。
機嫌が悪ければ、
ぶんぶん動く。
人間のポニーテールは、
そこまで正直ではないらしい。
それでも、
結ぶだけで印象は変わる。
少し軽く見える。
少し若く見える。
少し元気そうにも見える。
吾輩は思う。
人間とは、
不思議なものである。
同じ人でも、
髪型一つで、
違って見える。
中身は変わらぬ。
だが、
見え方は変わる。
そして時には、
見え方が変わることで、
本人の気分まで変わる。
髪をまとめる。
顔を上げる。
少し身軽になる。
それだけで、
次の一歩が出やすくなることもあるのだろう。
だが、
ずっと結んでいれば疲れる。
家に帰れば、
ほどく。
緊張も、
一緒に少しほどける。
吾輩は思う。
まとめることも大切。
ほどくことも大切。
どちらか一方だけでは、
長くは続かぬ。
人間は、
仕事では自分を整え、
外では少し格好をつける。
そして、
安心できる場所へ戻れば、
力を抜く。
猫も同じである。
外では周囲を見る。
家では、
腹を出して寝る。
吾輩は猫である。
ポニーテールにはできぬ。
だが、
きちんと整える時と、
思いきりほどく時の両方が必要なことは知っている。
ポニーテールとは、
ただ髪を結ぶ形ではない。
少し気持ちを上向きにし、
また帰る場所では、
静かにほどける余白まで含めた、
人間なりの尻尾なのだ。
結ぶ日は
心も少し
上を向く