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【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/9/13

吾輩は猫である ― 線状降水帯 編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。 昨夜から雨がやまぬ。縁側の外は白く煙り、庭の土は水を吸って重く沈んでいる。ただの長雨かと思っていたが、飼い主のテレビから「線状降水帯」という言葉が流れた。 どうやら空の高みに、雲が次々と連なり、同じ場所に雨を落とし続ける仕組みらしい。吾輩の眼には、空が破れて水が注いでいるようにしか見えぬ。 やがて雨脚は強まり、屋根を叩く音は太鼓の連打のよう。排水溝は溢れ、川は濁流となる。吾輩は窓辺から動かず、ただ耳を伏せてその音を聞いた。 自然の前では、猫も人も等しく小さな存在に過ぎない。 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/9/13

吾輩は猫である ― 猫歌舞伎 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 今宵、木挽町の大舞台。定式幕がすっと引かれると、太鼓の音が鳴り渡り、笛が澄んだ調べを奏でた。観客の視線が一斉に花道へ注がれる。 そこに現れたのは――吾輩。役は「招き猫三番叟」。毛並みは黒白のまだら模様、鈴を胸元に飾り、緋色の衣をまとって進む。 足取りをすり足に合わせ、途中で見得を切ると、客席から「にゃーっ!」と声が飛ぶ。人間の「成田屋!」に劣らぬ掛け声だ。 舞台の最後、大きな鯛が吊り下げられる。吾輩は勢いよく飛び移り、しっぽを高々と掲げた。拍手が鳴りやまず、照明がまばゆく降 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/9/7

吾輩は猫である ― インターン 編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。 今朝はいつもの昼寝場所ではなく、飼い主に連れられてオフィスなる場所に来た。どうやら「インターン」という制度で、若者が社会を学ぶ日らしい。 スーツ姿の学生たちが緊張した顔で挨拶をしている。「よろしくお願いします!」声は張りつめ、まるで新しい縄張りに踏み込む猫のようだ。 吾輩は机の下から観察する。メモを取る姿、パソコンを打つ指先、笑顔を作ろうとするがぎこちない口元。それでも必死に前へ進もうとする様子に、ひげがぴくりと動いた。 人間にとってインターンは試しの場らしい。だが吾輩から ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/9/7

吾輩は猫である ― 猫敬老の日 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 この町では今日は「敬老の日」だという。人は年長者を敬い、感謝を伝える日らしい。だが猫の世界でも、長く生きることは誇りである。 路地裏の古株の三毛は、齢二十を越えた。耳は遠くなり、足取りはゆっくりだが、眼差しは今も若き日の狩人のままだ。吾輩たちは自然と頭を下げ、その背中に教えを受けてきた。 長寿の猫には、物語が刻まれている。港の変わりゆく景色を見届け、世代ごとの人間に可愛がられ、何度も季節を乗り越えてきた証だ。 人は花束や贈り物を用意するらしい。猫にとっては、陽だまりの座布団 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/9/7

吾輩は猫である ― ペットのための防災 編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。 日々の暮らしは穏やかだが、時に地は揺れ、風は荒れ、雨は牙をむく。そのたびに、人は「防災」を語る。だが忘れてはならぬ。人と共に生きる吾輩たちにも備えは必要だということを。 キャリーケースは避難の船。普段から慣れていなければ、いざという時に吾輩は中で暴れる。水とカリカリは三日分。薬やトイレ砂も、小さな袋にまとめておくのがよい。 首輪やマイクロチップは、離れたときに吾輩を見つける道しるべ。写真も大切だ。「この子です」と飼い主が示せる証拠となる。 避難所では「動物は困る」という声も ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/9/7

吾輩は猫である ― ネコノミクス 編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが、町内で最近囁かれているのは「ネコノミクス」なるものだ。 発端は魚屋の値上げである。鯵が一尾20円高くなったと聞けば、猫たちの暮らしは直撃を受ける。「給料(=カリカリ)は増えぬのに、物価ばかり上がるにゃ」獅子丸は尻尾を打ちつけ、不満を漏らした。 そこで古株の沙羅が提案した。「魚屋に頼るばかりではなく、独自通貨“キャットコイン”を発行しましょう」すぐさま路地裏で流通が始まり、カリカリ一粒=1コインのレートが定められた。 だが、葵がこっそり隠したマタタビを担保にしたことで、通 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/9/7

吾輩は猫である ― ウニ、アワビ 編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。 市場の朝は活気に満ちていた。人間たちが威勢よく声を張り上げ、魚の匂いと潮の香りが入り混じる。その中でひときわ輝いていたのが、ウニとアワビであった。 氷の上に鎮座する黄金のトゲと、殻の中で静かに光る海の宝石。人間は財布を握りしめ、「今夜のご馳走だ」と口角を上げる。 吾輩はそっと近づき、鼻先で潮の香を吸い込む。――磯の深み、海の底を思わせる芳醇さ。魚屋が笑って言った。「猫さん、これはさすがに贅沢すぎるぞ」 確かに吾輩の舌はカリカリに慣れている。ウニやアワビは手の届かぬ高嶺の花。 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/9/7

吾輩は猫である ― ふるさと納税ーポイント〆切 編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。だが、今宵は落ち着かぬ。飼い主がパソコンにかじりつき、「〆切が!」「あと数時間!」と騒いでいるからだ。 どうやら「ふるさと納税」とやらのポイント交換の期限らしい。画面には米、肉、果物、アイスクリーム。人間は「どれにするか」と真剣に悩み、吾輩は横で「カリカリはないのか」と首を傾げる。 カチカチとキーボードを叩く音。時計の針は刻々と進む。まるでタイムリミット付きの狩りだ。「うなぎか、牛肉か、それともビール…!」飼い主の独り言は、ほとんど戦場の雄叫びである。 吾輩はしっぽで冷静に示 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/9/7

吾輩は猫である ― 台風 編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。 昼までは静かだった。だが、夕刻になると空の色が変わり、風が唸るように吹きつけてきた。木々は身をくねらせ、雨粒は斜めに走る。町全体がざわつき、台風が近づいていることを告げていた。 吾輩は縁側から庭を見つめていた。吹き飛ばされた落ち葉が舞い、小さな枝が音を立てて転がる。空気は重たく、湿り気を含んで胸にまとわりつく。 やがて、雨脚が一気に強まった。屋根を叩く轟音が、太鼓の連打のように響く。吾輩は耳を伏せ、体を小さく丸めて毛布に潜り込んだ。 しかし、不思議なことに――その轟音の中に ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/9/7

吾輩は猫である ― 猫のお別れ 編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。この三か月、同じホテルで暮らした仲間がいた。窓辺で日向ぼっこを分け合い、夜は隣のケージ越しに「にゃあ」と声を掛け合った。知らない場所での心細さも、その存在があったから乗り越えられた。 だが今日、彼は迎えに来た飼い主の腕に抱かれ、自宅へ帰っていった。職員が「よかったね」と微笑む。確かに、それは喜ばしいこと。けれど胸の奥が少しだけぽっかりと空いた。 葵が言った。「お別れは寂しいけれど、また会えるかもしれないよ」獅子丸はしっぽを振って、「いつか遊びに行けばいいじゃん!」と元気づける ...