吾輩は猫である。名はまだない。ここ横浜は、かつて黒船が見えたという港町。吾輩の祖先もきっとそのあたりで開化の風に吹かれていたに違いない。 最近では「ハマっ子」の気風も薄れ、人の顔もビルの壁もガラスのように冷たい。ランドマークの足元で、吾輩が毛づくろいをしていようが誰も気に留めぬ。いや、それどころかスマホのレンズを向けてくるのが関の山である。 桜木町では再開発が進み、古い市場や路地裏の飲み屋が次々と消えていく。吾輩が昔なじみの三毛と再会した角も、今ではカフェとマンションが並ぶだけ。進歩とは便利さの名を借りた ...