吾輩は猫である。名はまだない。生まれは路面電車の走る街。夏になると、観光客が増える。ハウステンボス、グラバー園、眼鏡橋――けれど、8月9日だけは、町の時間が一瞬止まる。 正午前、平和公園の空に鐘が鳴る。遠くからでも、その音はまっすぐ響いてくる。人間たちは立ち止まり、吾輩もいつもより静かに、蝉の声と空の色を見つめる。 祈りとは 声なき夏の 風である この町の夏は、美しくて、やさしくて、そして痛い。飼い主は、時折ぼそりと語る。「祖母はね、爆心地のすぐ近くで…」それ以上は、語らない。 その言葉の先にあるものが、 ...