吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ― BIG ISSUE編 ―

2025年6月26日

吾輩は猫である ― BIG ISSUE編 ―

吾輩は猫である。名はまだない。
だが街角の雑踏のなか、あの赤いベストを着た人間のそばにいることが多い。

彼は駅前の片隅に立ち、「ビッグイシューいかがですか」と声を出す。
その声は風に消えそうで、しかし芯がある。
新聞ではない。広告でもない。
彼自身が“誌面と共に立っている”のだ。

最初、吾輩はその人の足元が温かかったので、ただ眠りに来ていた。
だがある日、彼が小声でこう言ったのを聞いた。
「これを売るのは、俺の名刺みたいなもんだ」

なるほど。
この薄い一冊に、自分の存在を刷り込んでいるのだ。

人は時に、職を失い、家を失い、名すら忘れられる。
それでも「売る」という行為が、
“対等なまなざし”をもう一度取り戻す。

猫には名がなくても、居場所がある。
人には居場所がなくても、名を取り戻せる。

その橋渡しをしているのが、この一冊だ。

吾輩は今日もその足元で寝そべる。
ときどき通行人が、「猫も売ってるの?」と笑う。
彼は照れながら言う。「そっちは非売品」

紙一枚 売る手の奥に 名が立ちぬ

BIG ISSUE、それは“売られる雑誌”ではない。
売ることで、誰かが誰かに戻るための、静かな革命である。


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gonta

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