吾輩は猫である。名はまだない。
このところ、飼い主の膝の上を新入りの子猫が占領している。
白くて小さく、鳴き声は妙に甘い。
吾輩がそこに座ろうとすると、
「だめよ、今この子がいるの」と言われた。
胸の奥で、何かがチリチリと燃えた。
食事の時間も、つい皿をひっくり返してしまう。
飼い主は困った顔をするが、
それでも目はあの子猫に向いたままだ。
嫉妬――人間はそう呼ぶらしい。
猫にとっては、ただ“好きな相手を取られた”という単純な痛みである。
吾輩は夜の窓辺に座り、
月明かりに映る自分の影を見つめた。
ふと、飼い主がやってきて、
吾輩の頭をそっと撫でた。
「ごめんね、あなたも大事なのよ」
その一言で、胸のもやがすうっと消えていった。
吾輩は猫である。名はまだない。
けれどその瞬間、ようやくわかった。
嫉妬とは、愛されたいという願いの裏返しなのだと。
月の夜 独りの影も ぬくもりに