吾輩は猫である。名はまだない。
だが、“アイスの名店”はすべて知っている。
暑い日だった。
道端のアスファルトが肉球を炙るような午後、
吾輩は「アイスクリーム食べ歩き」に出かけた。
まずは商店街の老舗和菓子屋。
店先で出していたのは、抹茶と黒蜜のあいがけソフト。
香り高く、まろやか。
舐めるというより、嗅ぐに近い至福である。
次に訪れたのは駅前の観光案内所の脇。
ひっそりとキッチンカーが停まり、
そこには「トマトジェラート」と書かれていた。
トマト…?と眉をひそめたが、
意外と酸味が効いていて夏向きだった。
路地裏のカフェでは、
猫を模したクッキーが刺さった“ねこアイス”があった。
若い女子たちが写真を撮る中、
吾輩はその隙を突いて、カリカリ部分を一口失敬した。
汗だくの飼い主が追いついてきた頃には、
吾輩はもう五店舗目。
口の中が冷気の万華鏡である。
飼い主は言った。
「猫舌じゃなかったのか?」
違う。吾輩は猫である。
だが“アイス猫”でもあるのだ。
日も暮れて、最後に寄ったのは港の近くのジェラート屋。
海風と潮の香りと、
ラムレーズンの記憶がふわりと重なる。
食べ終えて、吾輩はふと気づく。
この町には、まだまだ知らない味がある。
それを探す旅は、
冷たくて、甘くて、ちょっとだけ切ない。
そして、今日の一句。
ご当地の 味を制すは 鼻と舌