吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ― しまなみの猫雑貨店 編―

2025年10月22日

吾輩は猫である ― しまなみの猫雑貨店 編―

吾輩は猫である。名はまだない。

瀬戸内の海をわたる風が心地よい。
橋を渡った先の小さな島に、
「猫雑貨店」と書かれた看板が立っている。
店先には、陶器の猫、木彫りの猫、
布でできたブローチの猫――
どれも少しずつ違って、どれもやさしい顔をしていた。

吾輩はその店の軒先で暮らしている。
観光客が来るたびに、
「ほんとに猫がいる!」と声を上げる。
カメラを向けられても、
吾輩は気にしない。
この島では、時間さえ潮のようにゆるやかに流れる。

店主の女性は、
「どんな猫も、どこかに似ている」と言う。
それは、心のどこかに“帰りたい場所”を
みんなが持っているからだろう。
吾輩にとっての帰る場所は、この軒下。
潮の香りとハーブティーの匂いが混じる午後が好きだ。

夕暮れどき、
橋の向こうに沈む夕日が店のガラスを赤く染める。
今日も誰かが、小さな猫の置物を手にして笑った。
吾輩はその背中を見送りながら、
静かにしっぽを振った。

吾輩は猫である。名はまだない。
けれどこの店に立ち寄った誰かの心に、
少しでも温もりを残せたなら、それでいい。

潮風に ひげも微笑む 島の店


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gonta

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