吾輩は猫である(現代編)

吾輩は猫である ― ペットカート 編―

2025年8月22日

吾輩は猫である ― ペットカート 編―

吾輩は猫である。名はまだない。
だが、乗り物にはちょっとだけうるさい。

最近、飼い主が手に入れたのは「ペットカート」。
四輪で、幌付き。
まるで王族のように移動できる優れもの――
らしい。

初日は疑った。
乗せられた瞬間、軽い揺れに耳を伏せ、
道路の音に背中の毛が逆立った。

だが二度目には、
カート越しに世界を眺める面白さを覚えた。
犬が振り返り、人が「可愛い〜」と覗きこむ。
知らない花の匂い、
ベビーカーの赤ん坊と目が合う瞬間。
不思議と、悪くない。

カートの中では、動かずとも旅ができる。
吾輩は、まるで港町の灯台のように静かに座る。

飼い主はよく言う。
「歩けるんだけどね、暑いから」
「安全第一だよ〜」
それも分かる。
だが――
吾輩は「乗せられている」のではない。
「乗ってやっている」のだ。

信号待ちで隣に並んだ自転車の高校生が、
「猫が乗ってる!」と笑った。
ふむ、それで良い。
世界に、少しだけ余白を与える存在になれれば本望である。

帰宅後、飼い主が言った。
「ね、楽しかった?」
吾輩は、しっぽを一本ぶんだけ揺らした。
それが、「また乗ってやってもいい」の合図である。

吾輩は猫である。
誇り高く、慎ましく、
静かに街を見下ろす、四輪の旅人である。


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gonta

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