吾輩は猫である。名はまだない。
だがこの家では「長男猫」として、冷静と威厳を保っている(つもりだ)。
ただし、あのしっぽが現れるまでは。
――ちょび。
小柄で人懐こく、目はくりくり。
だが彼の真の武器は、その背後にある。
しっぽ。もふもふ。
いや、正確に言えば、一本の“毛布”である。
触れればぬくく、巻かれれば夢見心地。
吾輩ですら、気づけばあの毛布のそばで丸くなってしまう。
冷蔵庫の上からクロミが言う。
「今日も自前の暖房、働いてるね」
無愛想な彼女も、冬場だけはちょびのしっぽにだけ心を許す。
猫同士 言葉はなくて しっぽ寄る
ときに飼い主がふざけて「貸して〜」と触ろうものなら、
ちょびはくるんと丸まり、尻尾で顔を隠す。
それは毛布の所有権を守る、彼なりの矜持だろう。
ただ、夜だけは別だ。
飼い主が寝静まったあと、
ちょびはそっとしっぽを伸ばし、
吾輩とクロミのあいだに差し出す。
言葉はない。だが、伝わる。
「ほら、仲良くするにゃ」
――そう聞こえた気がした。
猫は孤独が得意な生きものだが、
毛布一枚で、世界がやわらぐ夜もある。