吾輩は猫である。
旅好きの飼い主に連れられ、
この夏、海を越えてトルコを訪れた。
驚いたのは、街中の猫の多さだ。
カフェの椅子にも、モスクの階段にも、
市場の棚の上にも、当然のように猫がいる。
しかも誰も追い払わず、水皿や餌が置かれている。
「ここでは猫は町の住人」と、ある青年が言った。
市も法律で動物への虐待や遺棄を禁じ、
地域全体で世話をするのだという。
一方、日本では、野良猫は「地域猫」として
ボランティアや行政が協力して世話をする動きはあるが、
場所によっては餌やりが苦情の種になる。
法律上も、虐待や遺棄は禁じられているが、
人と動物の距離は、どこか控えめだ。
トルコの町では、
パン屋の前で吾輩がくつろいでいても、
店主は「お客さんを呼ぶ招き猫だ」と笑う。
日本なら「衛生面が…」と追い払われるかもしれない。
どちらが良い悪いではない。
文化や環境、歴史が違うだけだ。
ただ吾輩は思う。
人と動物が互いに心地よく共存できる町は、
きっと人間同士も暮らしやすいのではないか、と。
旅の終わり、港町の夕陽の中で、
吾輩はトルコの猫仲間に別れを告げた。
そして日本に戻ったら、
少しでもこの「おおらかさ」を
しっぽの先にまとって帰ろうと決めた。
吾輩は猫である。
国境を越えても、
心地よいひなたの場所を探す本能は同じなのである。