吾輩は猫である。
名前はまだない。
人間は、
時々笑いながら近づく。
味方のように見える。
親しげに話す。
だが、
心の中では別のことを考えている。
人間はこれを、
裏切りとか、
化かし合いとか呼ぶ。
吾輩は思う。
実に器用な生き物である。
猫なら、
嫌なら離れる。
警戒すれば、
耳が動く。
怒れば、
尻尾に出る。
隠しているつもりでも、
だいたい漏れている。
人間は違う。
笑顔のまま、
距離を詰める。
褒めながら、
値踏みする。
握手しながら、
次の一手を考える。
なかなか高度である。
だが、
吾輩は思う。
化かし合いとは、
賢さではない。
相手も同じことを始めれば、
誰も信じられなくなる。
そして、
信じられぬ者同士ほど、
確認が増える。
契約が増える。
会議が増える。
メールも増える。
結局、
ずいぶん面倒になる。
人間は、
裏切られると怒る。
だが、
自分が少しごまかす時には、
「仕方がない」と言う。
そのあたりも、
実に人間らしい。
吾輩は思う。
信頼とは、
相手が絶対に裏切らないと信じ込むことではない。
裏切れば、
関係が壊れると知りながら、
それでも誠実でいようとすることではないかと。
猫同士にも、
駆け引きはある。
餌の場所。
寝床。
縄張り。
だが、
毎日だまし合っていたら、
昼寝をする暇がない。
だから、
ある程度は相手を読む。
そして、
ある程度は信じる。
その方が、
ずっと楽である。
吾輩は猫である。
化かすくらいなら、
最初から少し離れる。
裏切りとは、
一度の行為で終わるものではない。
その後、
相手の中に残る疑いまで含めて、
長く続くものなのだ。
人間よ。
勝ったつもりで、
信頼まで失ってはいないか。
化かし合い
最後に消える
信頼よ