吾輩は猫である。名はまだない。
寒い朝。
部屋の隅に鎮座する赤い城――そう、こたつである。
飼い主がスイッチを入れると、
じわりと足元から光がにじみ、
世界がゆっくりと溶けていく。
吾輩はためらうことなく潜り込む。
中は別天地。
まるで太陽の腹の中にいるようだ。
飼い主の足先が動くたび、
毛がふわりと触れ、眠気が波のように押し寄せる。
こたつの中では、
時間の概念が曖昧になる。
昼も夜も、ただぬくもりに包まれ、
夢とうたた寝の境が溶けていく。
人はこれを「怠惰」と呼ぶが、
吾輩に言わせれば「哲学」である。
動かずして世界を感じる――それが冬の極意なのだ。
やがて、飼い主が布団をめくって言う。
「出なさい、掃除するよ」
吾輩は無言で奥へ奥へと退避。
――こたつの民、最後の抵抗である。
外は冷たい風、
中は春のようなぬくもり。
この狭い空間こそ、
猫にとっての宇宙なのだ。
吾輩は猫である。名はまだない。
だが今日も、このこたつの中で、
小さな幸福を守っている。
動かねど 心は満ちて 冬こたつ