吾輩は猫である。
名前はまだない。
部屋の匂いが、
少し違う。
見慣れたはずの物も、
置き場所が変わるだけで、
別の顔になる。
人間はこれを、
新生活と呼ぶ。
箱が積まれ、
紙が散り、
何かが始まる音がする。
だが、
まだ整ってはいない。
不安と期待が、
同じ場所に置かれている。
吾輩は、
ゆっくりと歩く。
急がぬ。
新しい場所ほど、
慎重に確かめる。
安全な道、
落ち着く角、
日の当たる場所。
それらを見つけてから、
やっと座る。
人間は、
すぐに慣れようとする。
だが、
慣れとは、
急ぐものではない。
時間とともに、
少しずつ染み込むものだ。
新しさは、
刺激であると同時に、
負荷でもある。
だから、
余白が必要だ。
何も置かない場所、
何もしない時間。
それが、
次を支える。
やがて、
箱は減り、
物は収まり、
部屋は日常へ変わる。
吾輩は猫である。
環境は変わっても、
本質は変わらぬ。
新生活とは、
変わる中で
変わらぬものを見つけることなのだ。
新しき
部屋に残るは
我がままなり