吾輩は猫である。
名前はまだない。
湯は、
一つではない。
山の湯。
海の湯。
熱い湯。
ぬるい湯。
人間はこれを、
温泉巡りと呼ぶ。
泉質が違えば、
肌触りも違う。
景色が違えば、
心の動きも変わる。
同じ温泉でも、
同じではない。
吾輩は思う。
旅とは、
目的地を増やすことではないと。
感じ方を増やすことだ。
湯に浸かり、
風を受け、
静かに空を見上げる。
何もしない時間が、
少しずつ心を整える。
人間は、
名湯を巡る。
だが、
本当に残るのは、
誰と行ったか、
どんな景色を見たか、
その日の空気である。
湯は、
疲れを流す。
だが、
思い出は流れぬ。
一つ、
また一つ。
訪ねるたびに、
心の地図が広がっていく。
吾輩は猫である。
湯には浸からぬ。
だが、
人が穏やかな顔で戻ってくる理由は知っている。
温泉巡りとは、
名湯を集めることではなく、
自分が安らげる場所を見つける旅なのだ。
湯を巡り
心の地図も
広がりぬ