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【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/11/8

吾輩は猫である ― おこじょ 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 雪が降り積もる山あいの村。白銀の世界を歩く吾輩の前に、小さな影がぴょんと跳ねた。 それは――おこじょ。白い毛並みに黒い尻尾、雪の中をすばしこく走る小さな生き物である。 「寒くないのか?」と吾輩が声をかけると、おこじょは振り向いてにやりと笑った。「雪の中こそ、わたしの道。足跡が風になるんだ」その言葉に、吾輩は舌を巻いた。人も猫も寒さを避けて家にこもるが、おこじょは冬を生きる達人なのだ。 夜になると、山は静まり返る。吾輩は屋根の上で星を眺め、おこじょは雪穴の中で丸くなる。それぞ ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/11/4

吾輩は猫である ― 満天の星空 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 夜。飼い主が寝静まったあと、吾輩はそっと窓辺にのぼった。雲ひとつない空に、星が無数に散りばめられている。 まるで誰かが黒い布に針で小さな穴をあけ、そこから光をこぼしたようだ。 遠くの山も街も眠っている。けれど空だけは、何千年も昔から目を覚ましたままだ。 吾輩は思う。あの光は、今も届き続けている。何光年も前に消えた星の光が、こうして吾輩の瞳に映るのだ。――不思議なことだ。小さな命が、宇宙の果てとつながっている。 流れ星がひとすじ、夜を切り裂いた。願いごとをする間もなく消えたが ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/11/4

吾輩は猫である ― 猫と雷鳥 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 立山の稜線を、白い霧が流れていく。その中で、ふと雪のように淡い羽音が聞こえた。見上げると、そこに一羽の鳥がいた。羽は灰と白のまだら、目は小さく、まるで雲の一部が命を得たような姿――雷鳥である。 吾輩は声をかけた。「こんな高いところで、寒くはないのか?」雷鳥は小さく首を傾げ、「寒いけれど、ここが私の家です」と言った。その声は風の音にまぎれて、まるで山自身が語っているようだった。 吾輩はしばらく黙って隣に座った。人も猫も鳥も、この山では皆、同じ空気を吸い、同じ雲を見上げて生きて ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/11/4

吾輩は猫である ― 猫のワールドシリーズ 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 夜更け、飼い主がテレビの前で吠えていた。「ホームランだ!」「ストライク!」どうやら“ワールドシリーズ”という戦が行われているらしい。 画面の向こうでは、白球が風を裂き、歓声が空を揺らす。選手たちの目は真剣そのもの。だが吾輩の目には、あれは巨大な“ネズミ追い”のようにも見える。 飼い主は興奮のあまり、吾輩の背中をなでながら叫ぶ。「大谷、やったー!」吾輩は目を細める。――あの俊敏さ、きっと猫族の末裔に違いない。 試合は延長戦に入り、人々の手に汗がにじむころ、吾輩はあくびをひとつ ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/11/3

吾輩は猫である ― 猫と立山 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 この地は立山。空に手が届くほどの峰々が、静かに白い息を吐いている。山の風は冷たく、けれどどこか懐かしい匂いがする。 吾輩は、山小屋の縁側で暮らしている。登山客が通るたびに、「猫がいるぞ!」と声を上げる。だが吾輩にとっては、この山こそがふるさとであり、寝床であり、世界のすべてである。 朝は雲海の上に陽が昇る。鳥が鳴き、雪解けの水が音を立てて流れる。夜は星が近く、風が遠い昔の声を運んでくる。この山には、神が宿るという。なるほど、そうかもしれぬ。人も猫も、その神のまなざしの中でほ ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/10/29

吾輩は猫である ― 猫の日常 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 朝、陽が障子を透かして部屋に差し込む。飼い主の目覚ましが鳴るより早く、吾輩は窓辺で背伸びをする。世界は今日も、ゆっくりと動き始める。 朝食はいつものカリカリ。味も形も変わらない。だが、いつも通りにあるということは、案外すばらしいことなのだ。 午前は日なたで寝る。午後は陰で寝る。夕方は、飼い主の足元で寝る。人間はそれを「ぐうたら」と呼ぶが、吾輩にとっては「生きる訓練」である。――変化に動じず、風に身をゆだねる術なのだ。 夜になると、飼い主が帰ってくる。手を洗い、服をかけ、「今 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/10/27

吾輩は猫である ― 猫のお土産 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 飼い主が旅行から帰ってきた。玄関のドアが開くなり、スーツケースの中から「ほら、買ってきたよ!」と笑顔で差し出したのは――魚の形をしたキーホルダー。 ……吾輩はしばし沈黙した。 期待していたのは、せめてカツオ節か、サーモン味のパウチである。だが飼い主の満足げな顔を見たら、文句のひとつも言えぬ。「気持ちが大事」とは、こういうことなのだろう。 袋の中から、さらに出てきた。「猫用まくら」「旅先限定キャットミルク」「温泉の匂い付きタオル」。……要するに、人間が楽しそうに選んだ物たちで ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/10/27

吾輩は猫である ― 女性総理 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 朝のニュースで、アナウンサーが少し緊張した声で告げた。「本日、日本で初めての女性総理大臣が誕生しました」 飼い主はコーヒーを落としかけ、「ついにこの日が来たか」と呟いた。吾輩は窓辺からテレビをのぞき込み、スーツ姿の女性が深々と頭を下げる姿を見た。 世の中が変わる時というのは、派手な音もなく、静かに訪れるものらしい。その目は凛として、しかしどこかに慈しみの光を宿していた。 かつて、政治の世界は男の声であふれていた。議論は強く、理屈は鋭く、けれど、どこか冷たかった。この新しい時 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/10/22

吾輩は猫である ― 議員削減 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 夕方のニュースで、飼い主がテレビに向かってつぶやいた。「議員の数を減らすらしいよ」吾輩は耳をぴくりと動かした。――議員とは、人間の群れのリーダーのことか? スタジオでは専門家が言う。「無駄をなくし、効率的な政治を」しかし、別の人は反論する。「数を減らせば、多様な声が届かなくなる」人間というのは、何かを減らしても増やしても、必ず揉める生き物らしい。 猫の社会では、単純である。多すぎれば喧嘩が増え、少なすぎれば見張りが足りぬ。だから、縄張りの大きさに合わせて自然に調整される。こ ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2025/10/22

吾輩は猫である ― 猫の誕生日 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 朝、カリカリの皿の隣に見慣れぬ包みが置かれていた。中には新しい首輪。赤いリボンがついている。飼い主がにっこり笑って言った。「今日はお誕生日だよ」 誕生日――人間のようにケーキもろうそくもないが、この家では、吾輩がここに来た日をそう呼んでくれる。 思えば、段ボールの中で鳴いていた小さな吾輩を、飼い主が拾ってくれたのは数年前の春。初めて撫でられた日の温かさを、今でも覚えている。 年月はあっという間に過ぎた。爪は丸くなり、毛並みは少し柔らかくなった。それでも、飼い主の足音を聞くだ ...