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【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/1/15

吾輩は猫である ―CAT48 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 最近、人間たちが口にする。「推しは誰?」「総選挙がさ……」どうやら大勢の中から、一匹を選び、応援する文化があるらしい。 もし猫にもそれがあるなら、CAT48という集団ができるだろう。四十八匹、それぞれ個性が違う。甘え上手、距離感重視、無言の圧、突然の膝乗り。 だが吾輩は思う。猫に“センター”は要らぬ。順位も、票数も、比較も、猫の世界にはなじまない。 なぜなら、猫は一対一で完結する。選ばれるのではなく、気づけばそこに居る。推されるのではなく、いつの間にか手を伸ばされている。 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/1/15

吾輩は猫である ―愛玩動物飼養管理士 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 ある日、飼い主が分厚い本を開いていた。図や文字が多く、どうやら簡単な読み物ではないらしい。「愛玩動物飼養管理士、勉強中なんだ。」 吾輩はその言葉を聞き、少しだけ背筋を伸ばした。“愛玩”とは、可愛がること。“管理”とは、守ること。なかなか責任の重い組み合わせである。 本には、食事、病気、行動、法律。かわいいだけでは済まされぬ事柄が、静かに並んでいる。吾輩は思う。知るとは、自由を増やすことではなく、無知による傷を減らすことなのだ。 飼い主は言った。「ちゃんと理解して、一緒に暮ら ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/1/15

吾輩は猫である ―猫目線カメラ 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 ある日、飼い主が床に小さな機械を置いた。「猫目線カメラ、試してみよう。」どうやら吾輩の首元に装着し、世界を“猫の高さ”で撮るらしい。 歩き出すと、人間の足がやけに大きい。椅子の脚は森の幹のようで、ソファの下は立派な洞穴だ。人間が見落としている通路が、この家にはいくつもある。 匂いが先に来る。画面には映らぬが、床の角、窓辺の風、昨日の記憶。猫目線とは、視界だけでなく、感覚の総和なのだ。 飼い主が映像を見て驚いた。「こんなとこ、通ってたんだ。」吾輩は思う。世界は変わっていない。 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/1/11

吾輩は猫である ―力の支配 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 人間の世界では、「力」がものを言う場面が多い。声の大きさ、数の多さ、金の重さ、肩書の硬さ。 それらが揃うと、正しさより先に、従わせる空気が生まれる。 吾輩はそれを、高い棚の上からよく見ている。 力で押さえつけると、一時は静かになる。だが、本当に静かなのは、納得ではなく、諦めだ。 猫の世界でも、力は存在する。大きな体、鋭い牙。だがそれだけでは、群れは保てない。 無駄に威嚇する猫は、やがて孤立する。力を持ちながら、使わぬ猫が、一番長く場所を守る。 飼い主がニュースを見て、ため息 ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/1/11

吾輩は猫である ―横浜万博応援 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 港の風は、いつも少し先の話を運んでくる。今日はその風に、「万博」という言葉が混じっていた。どうやら人間たちは、未来を集める大きな催しを応援しているらしい。 横浜の街は、新しいものに慣れている。異国の匂いも、見慣れぬ建物も、いつの間にか景色の一部にしてきた。だから万博も、騒ぎ立てるというより、静かに背中を押す感じだ。 飼い主は言った。「横浜は、つなぐ役だよね。」海と陸、昔と今、人と人。猫から見ても、ここは交差点のような街である。 吾輩は思う。万博とは、派手な未来を見せる場では ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/1/11

吾輩は猫である ―いけおじ猫 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 若いころは、高いところに登り、無駄に走り、何にでも首を突っ込んでいた。だが今は違う。登る場所は選び、走る理由があるときだけ走る。 毛並みは少し落ち着き、動きは静かになった。だが、その分、場の空気がよく見える。これが“いけおじ”というものらしい。 吾輩はいちいち主張しない。鳴かずとも、視線ひとつで伝わる。甘えるときも、全面には出ない。さりげなく、膝の端を使う。 若い猫が騒いでいても、吾輩は距離を保つ。叱らない。羨ましがらない。ただ、「楽しそうだな」と思うだけだ。 飼い主が言う ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/1/11

吾輩は猫である ―レアアース 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 飼い主が難しい顔でニュースを見ていた。「レアアースが止まると、困るんだよな。」吾輩は首をかしげた。皿の中身が減るわけでも、暖房が止まるわけでもなさそうだが、人間にとっては大事らしい。 レアアース。名前は派手だが、姿は地味で、土の中にひっそりと眠っている。だが、それがなければ、画面も、電池も、静かに動く機械も成り立たぬという。 吾輩は思う。猫の世界にも、似たものがある。毎日の水、決まった時間、安心できる匂い。目立たぬが、欠ければすぐに不安になる。 人間は、便利になるほど、見え ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/1/11

吾輩は猫である ―高校サッカー 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 冬になると、テレビの前で飼い主の声が少し大きくなる。芝生の上を、若い人間たちが走っている。白い息、赤い頬、そして、やけにまっすぐな目。――高校サッカーである。 彼らはよく走る。意味があるのか、得なのか、そんなことを考える暇もなく、ただ、仲間の声に反応し、ボールを追う。 吾輩は思う。猫なら、あそこまで走らない。だが、走らねばならぬ時があることは知っている。逃げるためではなく、守るために走るときだ。 点が入る。歓声が上がる。ベンチが跳ねる。そして、点が入らなくても、泣く者がいる ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/1/11

吾輩は猫である ―インテリジェンス 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 人間はよく言う。「賢い」「頭がいい」「インテリジェンスがある」と。その基準は、計算が早いことか、知識が多いことか、言葉が巧みなことか。 吾輩は少し疑問に思う。 賢さとは、すぐに動くことではなく、動かない選択ができることではないか。危険を察し、距離を測り、今は待つべきだと判断する力。それもまた、立派な知性である。 吾輩は扉の前で鳴かない。一度、視線を送り、相手の反応を見る。それで開かなければ、別の場所で静かに待つ。無駄な力を使わぬこと。それが猫のインテリジェンスだ。 飼い主は ...

【吾輩は猫である 現代版】猫視点で描くオリジナル短編

2026/1/10

吾輩は猫である ―かぎ尻尾 編―

吾輩は猫である。名はまだない。 吾輩の尻尾は、まっすぐではない。途中で、くい、と折れ、小さな鍵のような形をしている。人はそれを「かぎ尻尾」と呼ぶ。 子猫の頃、それを見て心配する人もいた。「大丈夫? 曲がってるよ。」だが、吾輩にとっては最初からこの形だった。不自由も、違和感もない。 むしろ、この尻尾は役に立つ。狭い場所で体の向きを伝え、気分を少しだけ強く表現し、ときには、人の指を引っかけて引き留める。 昔から言われているらしい。かぎ尻尾の猫は、幸運を引っかけてくる、と。吾輩は信じても信じなくてもよい。だが確 ...