吾輩は猫である。名はまだない。だが、この通りに漂う香りだけは忘れない。豚骨と鶏油とニンニク――それは、町の空気を支配する香り。 今日も店の前に人が並ぶ。隣の新店舗がオープンしたらしく、かつての本家、直系、分家、独立系が火花を散らしている。 「うちは“家系の中の家系”だから!」「いや、うちは“本物のスープ”使ってるから!」 人間というのは、ラーメン一杯でここまで熱くなれるのかと、吾輩は湯気の中で首をかしげた。 味の前 系譜で揉める 人の性(さが) かつてこの路地には、煮干しそばの店もあった。だが今は、全方位 ...